わたし好みの新刊    201510

『ぴょんぴょんむし』   谷本雄治/さく 近藤薫美子/え  岩崎書店

 『ぴょんぴょんむし』という題名を読んで,バッタやカエル以外ではどんな虫を

想像するだろうか。「まったく見当がつかない」というのが普通ではなかろうか。

絵本の絵はかなりデフォルメされていて,虫の形がよくわからない。絵をみている

かぎり,どんな虫の話なのか初めは見当がつかない。初めのページに

「しゃりしゃり、かさこそ。じょりじょりじょり。てんとうむしの あしもとで、

なにかが ちいさな おとを たてました。」

という文があり,大きなテントウムシの絵が描かれているが虫の姿はない。

次のページには大きな葉っぱの真ん中に穴があいていて中に幼虫らしきものが

見えるが,何の虫なのか見当がつかない。ページをくると,大きさ数mmほどの

〈この小さなまあるい葉っぱがつぎつぎと立って動き出す〉とある。なんとも奇妙

な光景である。「いったいこれは何モノなのか」と疑問を持ちつつ「あとがき」

を見る。「あとがき」には,この虫は「キンケノミゾウムシ」と書かれている。

聞いたことのない名前だ。どうやら,ドングリなどにいるゾウムシの仲間らしい。

このゾウムシ,普通の昆虫図鑑にはまず載っていない。

 さて,このゾウムシについて,絵本ではわかりにくいのでNET検索をかけると,

著者,谷本雄治さんの昆虫レポートが出てきた(「農業温暖化ネット」コラム

2012,06,14)。その記事に「田んぼ脇の小道で不思議な物体を見つけた。

地面で跳ねる毛もじゃ円盤である。… こんなものがあるなんて、実物を目にし

ながら信じられなかった」と谷本さんは,発見当時の驚きを記している。この

キンケノミゾウムシは長さが約2.5mmという小さな虫である。これではめったに目

につかないが,こんな奇妙な虫がいるとわかると,野山の虫さがしも楽しくなり

そうだ。「プチ生物研究家、ときどき児童文学者」と名のる谷本さんの作,子

どもたちに親しまれそうな本である。        2015,05刊 1,600

 

『カタツムリ ハンドブック』 武田晋一/写真 西浩孝/解説 文一総合出版

カタツムリの手頃な図鑑が発刊された。

カタツムリと一口に言っても,よく似た種(亜種)が多くてなかなか種を特定しに

くいのが現実である。カタツムリは他の生き物と違って移動範囲は小さく,生息域

が限定されるので,その地特有の固有種が生まれることが多い。それだけに種類

も豊富で,全国に800種はいるという。本書ではそのうち150種ほどが掲載され

ている。

ハンドブックとはいえ,最初にカタツムリの基本的な解説がある。

「カタツムリの生活史」「カタツムリはどこにいる」「カタツムリを探しに行こう」

を見ると,ほぼカタツムリの生活や居場所が見えてくる。オオケマイマイやニッポン

マイマイ,ヤマナメクジ(ナメクジもカタツムリの一つの種)など,広域種がまず

紹介されるが,広域種はきわめて少なく17種あるのみである。大きさ(殻径)は

mmのコハクガイから大きさ数cmのコベソマイマイ,体長20cmに近い大物ナメ

クジもいる。広域種以外の多数のカタツムリは地域限定の「ご当地カタツムリ」で

ある。白っぽいすきとおったカタツムリがいるかと思うとほぼ真っ黒なグロテスクカ

タツムリもいる。カタツムリも本当に千差万別である。こうして,ハンドブックで一

覧を眺めているのはいいが,実際に現物を見て種を特定するのは至難のわざだろ

う。今は,DNA鑑定もするとのことであるが,それでも区別がつきにくい個体もい

るという。陸上に棲む軟体動物カタツムリは,なかなかの大グループである。

この本では,所々にコラムが設けられている。「カタツムリと水中のタニシとど

こがちがうのか」「キセルガイとハゲ!?」「黒いカタツムリの謎」など興味深い

話が盛り込まれている。文字は小さいが中学生以上なら読める。一冊手元に置い

ておくと良い一冊である。             2015,07刊  1,600

 

                「新刊案内10月」